cdmaOne端末はどれも、アンテナの先端はシルバーに統一されている。先進性をイメージしたデザインとのことだ |
今年は携帯電話にとって、ひとつの大きなターニングポイントになる年だと言われている。そのひとつがNTTドコモのiモードであり、もうひとつがセルラーと日本移動通信(IDO)が提供するcdmaOneだ。cdmaOneは昨年3月からセルラー各社の一部のエリアで提供されていたが、今年4月14日、北海道セルラー、東北セルラー、IDOがサービスを開始したことにより、全国でサービスが提供されることになった。特に、IDOのサービスエリアである関東及び東海地区では、NTTドコモの顔としておなじみだった俳優の織田裕二をCMキャラクターに起用するなど、話題性バツグンの存在だ。NTTドコモを意識させる既存のデジタル携帯電話からcdmaOneへ乗り換えるというストーリー展開は、今までの広告展開になかったショッキングなものだ。
また、今回の全国ネットワーク開始に伴い、端末はcdmaOneシングルモード機が投入されている。昨年からサービスが提供されていたエリアでは、TACS方式とのデュアルモード機のみが販売されていたため、既存のデジタル携帯電話に対し、バッテリ駆動時間や端末の重量などで劣るという面があった。しかし、シングルモード機投入により、cdmaOne本来のパフォーマンスを引き出すことができるようになり、端末も80~90gと軽量コンパクトにまとめられている。
C201Hの背面には、cdmaOneのロゴの下に、メーカーである日立のロゴと“DIGITAL BY QUALCOMM”というロゴが見られる |
まず、cdmaOneで採用されているCDMAという多元接続方式について説明しよう。CDMA(Code Division Multiple Access/符号分割多元接続)は元々、軍事技術として開発された無線アクセス方式のひとつで、これを米Qualcommが携帯電話向けに改良したものが今回のcdmaOneに採用されている。
CDMAは比較的広い帯域の無線チャンネルを複数のユーザーで共有し、ユーザー毎に固有のPN符号(疑似雑音)で演算処理し、送信する周波数の帯域に拡散して送信する。受信した側は送信したときと同じPN符号によって音声を復元している。ちなみに、cdmaOneという名称はCDMAの普及を図る業界団体『CDMA Development Group』によって名付けられたもので、米国で標準化されたデジタル携帯電話の無線インターフェイス「IS-95」を採用した無線通信システムの総称だ。また、cdmaOneのシステムはすでに米国やカナダ、中国(香港)、韓国などで導入済みで、将来的には世界30カ国以上で導入される予定となっている。
これに対し、従来の国内のデジタル携帯電話はPDC(Personal Digital Cellular)と呼ばれる方式を採用している。PDCはTDMA(Time Division Multiple Access/時分割多元接続)を採用したデジタル携帯電話システムの名称で、日本国内のみのサービスが提供されている。TDMAを採用したデジタル携帯電話としては、欧州で標準化されたGSM(Global System for Mobile communications)があり、すでに約130カ国での採用実績がある。また、国内でサービスされているPHSもTDMAを採用している。TDMAによる無線通信システムでは一定の周波数帯を細分化し、さらに一定の時間間隔で分割してユーザーが利用する。
携帯電話システム名 | 多元接続の方式名 | 地域 |
---|---|---|
cdmaOne | CDMA | 米国及び日本、韓国、香港など |
PDC | TDMA | 日本 |
GSM | TDMA | 欧州など約130カ国 |
CDMAの技術的な話が難しくなってしまったので、もう少しかみ砕いて説明しよう。少々乱暴な言い方になるが、ご容赦いただきたい。TDMAという方式は簡単に言ってしまえば、一定の幅の道路を細分化して、クルマの大きさも揃えて、走らせている。これに対し、CDMAはクルマそのものを特殊な符号処理をすることにより、一定幅の道路を同時に複数のクルマが走れるようにしている。しかも、クルマの幅は自動的に変化し、必要なときは最大限の幅を使って走ることができる。つまり、CDMAは通信の品質を維持しながら、限られた周波数帯域をより効率よく運用できる技術ということだ。
CDMAはTDMAに対し、『一定の帯域で利用できるユーザー数が増える』、『ユーザーが利用する周波数が広帯域になるため、反射波などによるゴーストに強い』などの特性を持つ。また、現在、ITU(国際電気通信連合)で標準化が進められている次世代携帯電話システム『IMT-2000』でもCDMAを採用した技術が提案されている。cdmaOne陣営による『cdma2000』(従来はW-cdmaOneと呼ばれていた)、NTT移動通信網(NTTドコモ)などによる『W-CDMA』などがそうだ。こうした将来への動きからもわかるように、CDMAとTDMAは世代的にもまったく異なる技術ということだ。
このCDMAとTDMAの関係は、そのままcdmaOneとPDCの関係に相当する。前述の織田裕二によるテレビCMでは
「あの~、ボクのケータイと何が違うんですか?」
「え! 全然違う!?」
というシーンが放映されたが、まさしくcdmaOneとPDCは全然違うというわけだ。
ソフトハンドオーバー ひとつの基地局でカバーする範囲はセルと呼ばれる。このセルの境界付近では、『パスダイバシティ』による直接波と反射波を合成するのではなく、複数の基地局と同時に通信する。基地局制御装置は、複数の基地局からの通信を合成し、交換機に送る |
パスダイバシティ 従来のPDCでは通信品質劣化の原因となる反射波だが、cdmaOneではこれを逆に利用して電波送信レベルを保つ。1つの基地局からの直接波と反射波を最大3つまで、RAKE受信機で受信。複数波の時間的なずれを補正して合成する |
cdmaOneの特徴として挙げられるのが通話品質や安定度だ。従来のPDCによるデジタル携帯電話は移動中に「突然切れる」という問題点が指摘されていた。PDCでは基地局Aのエリアから基地局Bのエリアに移動する際、周波数のチャンネル切り替え(ハンドオーバー)により、音声の瞬断が起き、これに失敗すると回線が切れてしまう。これに対し、cdmaOneでは同じ周波数を利用する複数の基地局と同時に通信を行ないながら、チャンネルを切り替える『ソフトハンドオーバー』という技術を採用しているため、瞬断が起こりにくい仕様になっている。
通話品質を向上させるもうひとつの技術が『パスダイバシティ』だ。その昔、テレビを見ていると、司会の人の顔が二重に見えるゴーストという現象があったが、これは電波が途中のビルなどに反射し、遅れて届くために起きている。直接波と反射波の干渉はPDCによる携帯電話でも同様で、通話品質劣化の原因となっている。これに対し、cdmaOneではRAKE(レイク)と呼ばれる特殊な受信機を採用することにより、反射波を逆に利用し、通話品質を向上させている。RAKE受信機は最大3つまでの電波を受信し、これらを合成することにより、1つの電波を受信したときよりも高い受信レベルが得られる。高層ビルが立ち並ぶような都市圏では反射波も多いため、PDCとの品質の差はかなり大きくなると言われている。
そして、3つめが肉声に近い会話を実現するCODEC(符号化仕様)の採用だ。cdmaOneでは『8kbps EVRC(Enhanced Variable Rate CODEC)』を採用することにより、クリアな通話品質を実現している。音声を符号化する前に、周囲の雑音を削除しているため、通話相手の声を聞き取りやすいという特徴を持つ。ちなみに、アナログ回線やISDN回線では音声信号を64kbpsのデジタル信号に符号化して送受信している。アナログ回線なら交換機同士、ISDN回線ならISDN TA同士が信号のやり取りをしている。しかし、携帯電話では周波数を有効に活用するため、音声を圧縮した上に符号化して送受信している。たとえば、初期のNTTドコモのデジタル携帯電話や現在のJ-PHONEなどで採用されているPDCフルレート方式は6.7kbps(エラー訂正を除く)、現在のNTTドコモのデジタル携帯電話で採用されているPDCハーフレート方式は3.45kbpsの情報量を送受信している。これに対し、cdmaOneは8kbpsの情報量を送受信しており、現在のPDCハーフレート方式に対するアドバンテージは数値的にもハッキリしているわけだ。
また、データ通信については、現時点で14.4kbpsのデータ通信サービスを提供している。年内にはパケット通信サービスを提供することにより、64kbpsでのデータ通信も可能にする計画だ。ちなみに、PDCを採用するNTTドコモもパケット通信によるDoPaというサービスを提供しているが、こちらの通信速度は28.8kbpsまでとなっている。
(明日の後編:「もうひとつの魅力『WAP』/cdmaOneを使ってみて」に続く)
□cdmaOneサービス情報(IDO)
http://www.ido.co.jp/cdmaone/index.html
□cdmaOneサービス情報(DDIセルラー)
http://www.ddi.co.jp/cellular/cdma/cdma.html
[Text by 法林岳之]